すでに何度もお話したように会社には資本金という規模を規制する概念があり、その範囲で事業活動を行います。しかし実際には手元にある現金だけのビジネスでは事足りず、いわゆる売掛・買掛のような取引があったり賃貸借のような取引もあります。また信用取引として担保を提供したり他人の取引に保証をしたりすることもあります。ここで課題となるのが、個人と法人との間でこれらの取引が行われる場合しっかり記録されているかです。とりわけ法人側ではきちんと整理・決算される必要がありますので、曖昧にはできません。もっとも気を付けなければならないのが、賃貸借と信用です。これらについてみていきましょう。
①個人から法人への賃貸
通常個人事業からスタートする場合、法人成りしても会社が使う施設は個人が保有していたものをとりあえずそのまま利用するはずです。このとき個人と法人で賃貸借が生じます。ここで決して厳格にする必要はありませんが、会社は個人に家賃を払うべきです。将来事業が拡大して手狭になり引っ越すこともありますし、家賃を負担しても儲かっているか、を観察しなければ次のステップには行けません。
②個人から法人への信用供与
また会社は資本金だけではビジネスに足らず銀行から借り入れをすることもあります。このとき銀行はまだ生まれたばかりの会社には信用が足りないので代表者個人のバックアップを求めてきます。よくあるのが個人の不動産を担保にするか経営者保証を差し入れることです。銀行はこの時点では個人と法人を一体でみています。もし担保や保証がなかったらどうなるでしょう。一般の銀行は貸してくれないか、利息が高く設定されることになると考えられます。本来であれば会社は信用供与コストを負担すべきかもしれません。この個人と法人の関係は臍の緒と考えればいいでしょう。やがて会社が成長したら離れるべきものです。この論点はこのあとも何度も出てきますので今回はこの程度にしておきます。
これら以外に個人法人間の論点として役員給与・報酬があります。これは次回以降議論します。
今回は個人と法人のおカネの使い分けについて考えます。本シリーズの肝と言っても過言ではない論点ですので詳しくみていきます。
前回確認したように会社は資本金という概念を使って設立され社会的に取引信用を構築して発展していきます。また一定期間たてば決算をして会社のおカネの状況を説明します。すなわちある意味厳格におカネの使い道をトレースされていきます。一方個人は自分のおカネを事業に使おうが個人で消費しようが自由です。でももし本当に「自分の事業は儲かっているのか」どうかを知りたい人はやはり事業に係る部分を切り離して管理するのではないでしょうか。前回、会社の損益計算書と個人の青色決算書は差がないと言った意味は、個人が事業に係るおカネの動きを明確に別管理して青色申告しているという前提にたっています。たとえば事業を営んでいる個人が複数の銀行口座をもっていて、どの口座も事業・生活両方に使っているとしましょう。この場合考えられるリスクとして;
・事業の実態を把握しづらくなり
・銀行をはじめ取引先との交渉に時間がかかるとともに
・税務署から厳しくチェックされやすい
という事態が想定されます。
そこで個人が注意すべき点として:
① 商取引専用の口座をもつ(お客様に合わせて複数でもOK)
② 公私混在している支出は自分なりの区分ルールをもっておく
③ 財産・資金管理用の口座は個人用の口座にする
を励行すると個人の事業と生活のおカネを適切に分けて管理できると考えます。この中でもっとも難しいのは②ですが、ここではあえて深入りはしません。
今回はおカネの使い分けについて個人側からの見方をしました。次回は個人の不動産を会社の借入れの担保にしたり保証を入れている場合などについて会社側から見た留意点をみていきます。
前回はプロフィ―ルを出すことについてお話ししました。今回はお金にまつわる個人と法人の違いを見ていきます。
会社には資本金があります。これは取引における信頼を得るためであると言いました。なので大きいほど信頼されることになります。しかし会社を動かしているのは人間ですから資本金の大きさだけでなく、これを使ってビジネスをしていく道徳観みたいなのも重要です。
そこで以下のポイントを挙げておきます;
①資本金を使ってビジネスをやった結果をタイムリーに説明すること(通常これを「決算」と言います)
②個人のおカネと会社のおカネが明瞭に区別されていること
③ビジネスが継続されることを約束すること
今回はまず①の結果説明について深堀りします。
決算書といえば損益計算書と貸借対照表です。前者は個人の青色申告書と大差ありません。定款で定めた一定期間(会社決算期)の業績の説明書であり一般の方でもわかりやすいと思います。問題なのは貸借対照表のほうです。会社は設立時に株主から資本金が投じられますが、それを一定期間(会社決算期)でどう使ったかの説明が貸借対照表です。個人の青色申告書との違いはこの資本金にあります。会社の決算はこの元手の変動を記録していくので資本金そのものは動かしません。個人の場合は元手をベースにした管理をしませんので決算ではこの変動に意味がありません(あるとすれば税務上の繰越欠損金でしょうか)。
取引先は資本金の大きさもさることながら何に使ったのかに注目します。会社法では一定規模以上の会社にはその経済的な影響力に鑑み官報等への決算の広告を求めています。規模の小さい会社でも銀行から融資を受ける場合や行政の制度を利用する場合、大手企業と取引を開始しようとする場合などは決算の開示を求められます。大事なことは決算の内容を経営者自身が理解していて、「何をしたから、あるいはしなかったから、こういう決算になった」、ということを説明できることです。損益計算書の説明だけでなく貸借対照表の説明ができるということは社長さんの財務リテラシーが高い証拠だと思います。
次回もこの続きをみていきます。
今回は法人でやっていく場合のルールについてお話します。まずは who are you? について。
今では個人でもツイッターやフェースブックなどのSNS上や自身のHPで自己紹介をし、どんどんアピールできますが、会社の場合はプロフィールの出し方にいくつかのお作法があります。
まず設立登記で会社を設立したことの宣言をすること。そこで重要なのが以下の項目です:
①会社の目的
どんな会社でも「ウチは何をするのか」をみんなに宣言する必要があります。看板に掲げたメニューにないことをやったら世間の期待を裏切ることになります。
②設立者・株主
会社は究極的には人間が作り保有するものです。その会社が最終的に誰のものなのかはお付き合いをしていく取引先にとっては重要です。最近では株主を任意ではありますが開示する制度もできました。反社会的勢力ではないことをアピールするためにも重要と考えられています。
③役員
会社を動かすのも人間です。どういうメンバー構成で会社が運営されているのかも取引先にとって重要です。また②と同様に反社会的勢力のチェックが至る所で行われています。とくに金融機関との取引においては幅広い調査が行われます。
④資本金
個人との違いとして説明しておきます。会社は運営に必要な資金を先に会社の口座にプールしておく必要があります。これは個人は事業運営資金の源が見えないのに対して、会社は運営に必要な資金を予め設定してスタートし、取引先はそれを見てその会社が行うビジネスの規模ややり方を考慮したうえで取引をスタートさせるからです。財政的な裏付けとして取引信頼性の証とも言えます。また資本金は個人のおカネと会社のおカネを明確に区別する意味でも重要です。これについては次回以降深堀りします。
このほか税務署への設立届出関係や人を雇う場合は社会保険・雇用保険の加入手続きなどがありますが、詳細は割愛します。
世間には個人でも大きなビジネスをしている人は大勢います。ものづくりや売買だけでなく、個人でなければできない仕事、たとえばスポーツ選手やお笑い芸人などその個人事業の態様はさまざまです。では彼らは会社でやっていくことができないのか。そんなことはありません。会社にすることも可能です。おそらくその必要がないのだと思います。ではどういう場合に会社にする必要があるのでしょう。一般的には;
①人から信用されたい
②人に知られたい
③商いを拡大したい
④ヒトモノカネ情報を集めたい
などの事情がある場合には個人でやるよりも会社でやったほうが有利になると考えられます。それはなぜか。本質的な会社の意義はそこにあります。会社を設立し運営するにはいくつかのルールがあります。結論から言えばそのルールを守って仕事をすることがこれらの目的・必要性を満たすことにつながります。
たとえば会社の目的、構成、運営については会社法があり、それを外部に共有するには商業登記があります。これらのルールに従う場合には取引先や行政機関はその仕事人を信用してお付き合いをしてくれます。そうしてご縁が拡大していきますが、要はそのスピードが個人でやるよりも数倍早いということです。個人では仕事のやり方にルールはありませんので世間から見ると、会社のほうが外部からわかりやすくお付き合いしやすいということになります。
「世間から信用されたい」、これこそが会社でやっていくことの本質的な理由だと思います。ただしこれ以外の目的で会社が設立されることもあります。たとえばリスク遮断、財務・税務対策、事業再編などの特殊な目的で会社が設立されることがありますが、これらは個人事業との比較にはなりませんので、今回のシリーズでは扱いません。
次回は会社のルールについて詳しく見ていきます。
一般的に事業は個人からスタートすることが多く、いきなり会社としてもスタートできるケースは、上市(実装)可能な知財(ビジネスモデル)がある、スポンサーがいる、など恵まれた場合と思いますが、昔から人が事業を展開するのに個人事業でやるのがいいか、法人化したほうがいいか、という問いは常に我々税理士に向けられてきました。税理士に聞いてくるのだから税務的にどうなのか、を問われているわけですが、「法人」とか「会社」というものの概念や意義が理解されずに道具として語られていることが多いように思います。また様々な観点で損得を語る機会も多いのも事実ですが、これは本来勝ち負けや優劣ではありません。
私も自分たちの会社を立ち上げる際には法人にすべきか、どういう法人にすべきか、を様々な観点から検討しましたが、スタートアップを目指す方には是非このシリーズで議論されるポイントを押さえておいてほしいと思います。
このシリーズでお伝えしたい骨子は、
①法人・会社の意義
そもそも会社とは何者か、なぜ人は会社を設立するのか
②判断の基準
事業を営む人は何を達成したいのか
③事業家・経営者の覚悟
個人と法人の境界線はどこにあるか
です。
次回から内容に入っていきます。
いよいよ資金繰りシリーズの最終回です。
バリューチェーンの下流は①納品(売上計上)→②検収・確認→③請求→④入金確認の流れになります。
最も下流の仕事であり最も重要なのが資金の回収です。前回売上計上を雑にすると資金繰りに影響してしまう話をしました。きっちり販売管理がされている前提であるならば、あとやるべきことは請求して約定どおり支払いを受けることです。
普段お付き合いしている販売先とは決済でのトラブルは少ないと思いますが、本シリーズの第2回目で議論したように、海外との取引や公官庁との取引などでは約定があっても先方の事情に左右されるケースもあります。比較的大型の契約が多いと思いますので、こまめにコンタクトして先方に請求の意識付けをするとともに決済予定日は都度確認し、会社の資金繰りへの影響を把握する必要があります。そうでなくても普段から「お金にはうるさい会社」と顧客に思われておくことも大事です。
あと支払いの時期を約定よりも早める場合に手数料や金利相当分を差し引く慣習がある場合は、その部分は売上の回収とは別に計上することをお勧めします。帳簿をきれいにしておくのは回収管理のイロハです。
また今回とくに強調したいのは「回収」は会社全体の責任で行うべき作業であるということです。営業マンは売るのが仕事、回収は経理の仕事と考えるのは危険です。確かに請求書の発送や入金確認などは経理担当がやる仕事ですが、入金管理は販売管理の一部であり売った人が責任をもって回収するという意識は重要です。中小企業においては社長自身がこれらをすべて行っているかもしれませんが、多忙な毎日においてすべてを完璧に管理するのは容易ではありません。やはりそこは分業体制で複数の人の目でお金にまつわる管理をしていくのが肝要だと思います。
次回からは個人事業と法人事業について考察していきます。
お待たせしました。いよいよ下流の議論にはいっていきます。
バリューチェーンの出口すなわち財貨や役務の提供(=売上計上)は企業のもっともエネルギーが費やされる場面です。顧客の喜ぶ顔だったり反対に厳しい指摘だったり人間どうしのやりとりが凝縮される場面です。そして一番大事な資金の回収に向かうために売り方に注意を払うことが重要です。ここで売上計上におけるポイントを幾つか挙げておきます:
①商品の発送だけでは売上にならない可能性もあるので取引条件をよく確認するとともに、先方に主張できるように発送エビデンスをキープしておくこと
仕入の場合の逆を想定してみればわかることですが、自分では注文どおりに出したと思っていても顧客は実際に検品するまで仕入と考えていないことがあります。もし月締めの約定であればここで代金の回収が最大1か月ズレる要素があります。
②値引き・返品の処理は一定のルールを設け簡単に受け入れないこと、また通常の売上と混ぜないように管理すること
業種にもよりますが季節展開や委託販売で商品が定期的に返ってくるケースや販売状況によりインセンティブが授受されるケースがありますが、それらは個々の売上とは別の取引ですので、相殺計上は避け、入金管理も別にしておくべきです。
これらは顧客との間で売掛金の残高確認をやると大概出てくる違算理由です。売り手・買い手どちらも正当な処理をされていても資金の回収遅れにつながる要素ですので細かく注意したいところです。
次回は決済についてみていきます。
申し訳ございません。今月は休刊とさせていただきます。
余計な在庫を極力持たない仕組みがあるとして、購買・資材担当がすべきことは、①検収・検品のタイミングを明確に記録する、②決済のロットをまとめる、③サイトをこまめに設定する、です。オーダーしたものは手元に届いてその数量・品質が確認されてから仕入れ計上されているはずですが、仕入れ先は出荷基準で売上計上(及び請求)してきますので、それに対してこの手続を記録して明確に仕入れ先に説明できるようにしておくべきです。次にロットに関しては、たとえば発注の単位ごとで決済するか一定期間をまとめるかという問題があります。一般的に発注単位ごとだと売り手に有利で、一定期間くくると買い手に有利になります。今の日本は低金利なのであまり議論になりませんが、金利上昇時は運転資金の平残を見るとこの差は大きなものになります。そして支払いのサイトについては各業界で慣習があると思いますので一概には言えませんが、すべての仕入れに同じサイトを適用するのではなく、たとえば基本素材(木材、金属、化成品など)、包装材、薬品、塗料など分野ごとに設定することも有効です。
次に大きな運転資金投下先である在庫について考えます。生産担当がすべきことは、①極力製造途中の状態(いわゆる仕掛品)にしない、②検査は迅速に完了させる、です。工程が長い場合とくに後工程における仕掛品はたくさんの原価を吸い込んでいるので膨らんでいます。すなわち多くの資金を固定化している状況にあります。できるだけ仕掛状態に置かない工程管理が望まれます。そしてこれに続くのが品質検査です。検査工程でパスしないとやはり仕掛品扱いになります。また検査が追いつかないで仕掛在庫がたまるケースもあります。いかにReady to sellの状態にもっていくか、が工場内で問われる資金管理と言えます。
次回はバリューチェーンの下流に移っていきます。
企業のビジネスモデルや属する市場の特性にもよりますが、購買が単独で意思決定することはなく販売とリンクしているはずですのでもっとも効率性のいい購買はもちろん販売機会の直前に行うことです。しかし製造時間や物流時間を考慮すると一定のタイムラグをみて早めに仕入れていると思われます。いわゆる加工リードタイムの議論ですが、いかに無駄のない購買をするかが重要です。大手企業では独自のシステムで販売計画と購買計画を綿密に調整していることがありますが、それでもブレが生じてうまくいかないものです。「新鮮な」素材を使って「生きのいい」製品を販売することは企業の品質維持には重要なことです。入ったものが遅滞なく出ていくサイクルは資金効率のみならず企業活動全体を活性化させます。
これとともに重要なのが購買のロットです。上記のようにタイミングがドンピシャであっても販売のロットと合わない購買をしてしまうと原材料の在庫が発生してしまいます。しかし通常はいわゆる欠品のリスクを避けるためあえて余らせてもいいように買っていると思われます。また過剰仕入れを避けるため小ロット購買をしている企業もあります。しかしあまり小口で高頻度の購買をするのも取引先に負担を強いることになり逆に管理コストがかかってしまいます。
このように購買のタイミングとロットをバランスよく決めるのは非常に難しい問題です。
次回は決済の時期について考えます。
ビジネスにおける取引条件すなわち代金の受け取り、支払いの約束は一度取引が開始されて流れ始めると意外と見直す機会がないものです。お互いの信頼関係も醸成されてくるので無理もないところですが、いくつか気を付けたいことがあります。
①当初の約束からずれてきていないか
金額の大小や日数の長短に関わらずきっちり決済が行われているか、確認しておきましょう。日本はずっと低金利ということもあって意外と決済日までの金利の概念が甘くてほっておくとどんどん日数がずれてきます。海外では家庭の電気代の支払いでも奥さんは一日でも遅くしようとします。
②ずれにちゃんとした理由があるか
他の要因と一体で変更が許容されているのか、たとえば単価をオマケしてもらっているから決済は緩くしているとか、はきちんと確認してきましょう。大事なのは経済合理性です。
③管理不能な要因がないか
たとえば業者の都合で役務提供の完了が見通せないとか、役所・行政に委ねられて手続き待ちになっているとか、天候に左右されるとか、輸出取引で先方の事情がわからないとか、自分ではどうにもならず決済日が予測できないような状況もあるかも知れません。その取引が会社全体にどれほど重大かを把握しておくとともに、そのリスクをヘッジする方法を考えたいですね。
④受け身(不作為)になっていないか
どんな取引でも相手任せはよくないですね。取引先に対して「当社はきちんと管理している」という見せ方は重要だと思います。取引はお互い様なので相手の協力を引き出すことも必要です。
次回も資金繰りでお付き合いください。
本年もよろしくお願いいたします。