今月からは資金繰りについて考えていきます。コロナの経済制約から解放される一方、コスト高に見舞われ、ゼロゼロ融資の返済も始まり、中小企業の経営者は反転攻勢に出るためにまずは足元の資金繰りを上手にこなしていくべき状況にあります。
そこで資金繰りの基本を見直すとともにより戦略的な資金繰りについて考えていきます。
基礎編1:資金繰りとは
「資金」の「繰り」なのでおカネがうまく「回る」ことを意味しています。回るというのは入と出のタイミングと額が常に把握されていること。そして当たり前ですが大事なのは入が出よりも大きいことです。よく家内が毎日のように通帳を見ているので「眺めてても増えないよ」とバカにしていますが、実はこれが大事なんです。さらに重要なのは入と出の予定をそこに書き込めるかということ。
基礎編2:個人と法人のちがい
今更ですが個人事業主と会社による場合では資金繰りは異なります。おカネの入(売上)は同じですが、個人事業主の場合、出(コスト)のほうはビジネスと生活で分かれます。なかなか厳格に分けるのは難しいかもしれませんが自分の方針を決めてビジネス用を特定してください。通常はビジネスのほうは青色申告の収支内訳で年間の総額は把握されていますが、月次でこれを把握し動静を見ていくことが重要です。会社は当然毎月記帳しているのでそれを利用します。
基礎編3:取引条件
普段商売を続けているとつい忘れがちなのがお客や仕入れ先との取引条件です。B to Cの場合でもクレジットやECサイトの運営者による決済を利用すれば現金が入ってくるタイミングはずれます。一般に売上金の回収は月を跨いでしまうことが多い一方、仕入代金はそれより早く支払われることが多いと思います。このような条件を曖昧にせずしっかり守る・守らせることが重要です。この点は次回でも触れます。
たとえば:
①支援者の本来業務に関する法律・制度の改正点が特定の中小企業に及ぼす影響について考察し、わかりやすく説明すること
②専門外の領域の改正点についても該当の専門家から学び、概要ぐらいは説明できるようにすること
は継続的に取り組む必要があると思います。とりわけ、労務とITの領域は昨今の変革が急激でついていくのが大変です。支援者としては経験のないことへの助言を求められることになりますので、支援者どうしでの連携や専門家との交流は不可欠ではないかと思います。こうして支援者は常に一歩先を歩むぐらいのつもりでアンテナを張っておく必要があると認識しています。
今回は支援者による指導的機能の発揮について考えます。
支援者はよく指導的機能を発揮せよと言われます。しかしビジネスを一番わかっているのは経営者自身ですし、有事のときに一時的に関わっている支援者が経営者を超えてどこまで「指導」ができるのかは疑問です。やはりここでの「指導的」の意味はそれぞれの領域で、情報提供と意思決定のサポートをすること、なのだろうと思います。
具体的には:
①気づきを誘導する:情報や人的ネットワークを通じて経営者に見えている世界を少しでも広げてあげること
②未来志向にする:経営者が常に先を見渡せるように環境やインフラをセットすること
③振り返る機会をもつ:過去の延長線上に立たずにプランは反省から導くようにすること
などが挙げられます。
いずれにしても支援者の行動様式として正解はなく、どこまで行っても経営者との信頼関係や意思疎通によるところが大きいと言えます。ただこの関係ができるには時間がかかるかもしれません。行政や金融機関ではせっかく仲良くなっても担当者が異動してしまうことがよくありますので、企業側も受け身にならず支援者の指導的機能に期待を寄せ、継続的かつ能動的に接することが望まれます。
まずはじめに支援者ごとの支援すべき領域について考えてみましょう。
①行政面からの支援
中小企業政策として政府が掲げている施策は多岐に亘っており、経済環境によって毎年のように追加されています。たとえば設備投資を支援する補助金や促進税制、優秀な人材の発掘・サーチを支援する取り組み、後継者に事業を承継するサポート、緊急的無利子融資、経営者保証を減らす取り組み、さらに価格転嫁の促進など、経済を根底から支えるものとして評価できます。ただし中小企業が自らこれらの施策の使い方や効果を理解できるわけではありません。せっかくラインナップしている支援策をどう選択して利用するかのアドバイスから必要になります。産業振興センターやよろず支援拠点など全国に支援者が拡大しています。
②金融面からの支援
地域の金融機関でも最近は様々な取り組みが行われています。企業の成長ステージに合わせて必要な支援、たとえば創業期であれば柔軟な小口融資、成長期であれば販路政策や事業提携のサポートをしたり、企業の業況に合わせて苦境期であれば財務改善や事業計画(返済計画)の練り直し、さらには再編やM&Aの支援なども行っています。もちろん融資対応がメインにはなりますが、各地域の産業特性を理解している金融機関がサプライチェーンを俯瞰しながらアドバイスするのは中小企業にとって最も大きな助けになります。金融機関によっては専門家とコラボによりタイムリーにかつ専門性のあるアドバイスをして実績をあげているところがあります。
③専門家からの支援
中小企業に携わる専門家は(ここでは個々には言及しませんが)、平時から経営者に気づきを与えるようなForwrdlookingなアドバイスをしていると思います。しかし経営者のお困りごとが自分では対処しきれなくなった場合に、ネットワークを生かす支援が威力を発揮します。もちろん行政や金融機関を介しての連携もありますが、専門家どうしの補完的な役割が期待されます。会社の業況を改善するネタはあらゆる分野から湧き出てくる可能性があります。販売・購買・生産・財務・労務・物流などバリューチェーンから見たツボ探しも重要ですが、近年最も重要なのはこれらすべてに係るITのリテラシー向上ではないでしょうか。
実際の支援可能領域はこれらにとどまらないと思いますが、経営者の皆さんが各方面からの支援の存在に気付いていただくことがスタートだと思います。
表題にもある伴走支援という用語は頻繁に使われていますが、中小企業の経営を支えるという意味での「伴走支援」は、誰が、どのステージで、何を目的として行動するかによって異なってきます。従ってこの用語が出てきたらできるだけ具体的にイメージしてみる必要があります。
たとえば、行政は無料でいろいろ相談に乗り便宜を図るということをもって伴走支援と言い、金融機関は顧客ニーズに応じてタイムリーにしかも有利な条件で融資を行うことをもって伴走支援と言い、専門家はそれぞれの専門分野の助言を先行して行い経営意思決定を促すことを伴走支援と言うことがあります。いずれもキーワードは経営者に寄り添っていて適時に施策を繰り出す、ということなのだろうと思います。
しかしこれらの支援行動の結果中小企業で何が起き、支援者はその成果をどう捉えればいいのか、世間ではあまり議論されていません。たとえば支援者による支援行動と中小企業の業績との間に相関関係が成立しているのか、支援行動は正しかったのか、をレビューする機会すなわち支援のPDCAが意外と意識されていないようです。そこで、
①支援可能(支援すべき)領域
②指導的機能の発揮
③支援者側での高度化
の3つの視点から真に(たとえば社会的に)意味のある中小企業の経営支援をするためにはどうすればいいのかを神学論争にならない範囲で考えていきます。
①改めて事業承継とは
私見としては、事業承継とは担い手にかかわらず事業(=中小企業の場合は仕事)を永続的なものにすること、だと考えています。多少無礼な言い方になりますが、社長と従業員及びその家族の生活を維持するため、というレベルであっても社会的には事業承継をする意義があると考えます。もしそれがM&Aで実現されるならばM&Aで助けられる人たちがいるということになります。
②M&Aによる事業承継は身売りなのか
すでに触れたようにM&Aは非常にナイーブな経済行動であり、とくに中小企業ではM&Aによる事業承継が不幸にして「身売り」と受け取られることがあります。上記①のようなレベルではなくもっとポジティブな戦略的な背景からM&Aを実行したとしても周囲はネガティブに見ることがあります。とくに従業員から「社長が逃げた」と言われてしまうのは最悪です。やはり事前の十分な説明が不可欠です。
③求められる担い手とは
経営を引き継ぐ人はどういう覚悟を持っていればいいのでしょうか。まず必要なことは事業承継の背景をよく理解し変えてはいけないことと、変えるべきことの見分けがつくようにすることでしょう。そのうえで周囲が納得してついてくるビジョンが形成される必要があると思います。とりわけM&Aでは事情に詳しくない人が経営につく可能性が高く価値観の共有は重要です。
次回からは中小企業を取り巻く支援者の目線で考えてみます。
買い手側でもっとも重要なのは品定めです。俗に言う「デューディリジェンス」(以下「DD」と言います)のことです。一般的にDDは対象会社の財務、法務、人事、ビジネスなどの視点から強み弱みを確認して意思決定に利用するものであると同時に、M&Aが適切なプロセスを経ていることの説明にも使われます。ほかにも以下のような効能があります:
①買収金額の見積もりの参考とする
②買収スキームの検討に利用する
③買収後にグループで検討すべき事項を把握する
しかし何と言っても一番重要なのはDDをすることによって、M&Aで想定されるあらゆるリスクの負担及びその軽減を、売り手・買い手の間で適切に切り分ける(契約に反映させる)ことだと思います。したがってDDは両者にとってM&Aには必ず必要な手続きであると言えます。
中小企業どうしのM&Aではお互いの会社がすでに取引先であったり、金融機関や交流会を介して顔見知りだったりして、調べる・調べられるという関係は苦手なケースが多いと思います。しかし親しき中にも礼儀あり、売り手も買い手もそれぞれの主要得意先や金融機関や従業員など周囲の利害関係者にきちんとプロセスを経てM&Aが実行されたことを説明する義務があると思います。
ただしDDの実施には以下の注意が必要です:
①企業秘密や秘匿情報に触れる機会が多く不幸にして破談になった場合のことを考慮して行う
②必ずしも大掛かりなチームや専門家の動員は必要ではない
③調べる目的や理由を明確にして両者で協力して対応する
今回はDDの具体的な進め方については触れませんので、関心のある方はM&Aの教科書をご覧ください。
今月はちょっと難しいお話をします。専門家チックで恐縮ですが、M&Aにとって重要なお作法ですのでお付き合いください。
基本ルール1:M&Aに関係する方々の情報交換を制限すること(利益相反回避)
取引の当事者どうしはもちろんですが、M&Aに携わる支援者の方々も売り手か買い手かどちらかにアドバイスをすることになります。スポーツの試合で言えば両陣営に分かれているようなものです。
たとえば両者とお付き合いのある士業の方がアドバイスをしようとすると利益相反を指摘されることがあります。そのような場合その士業の方は、通常の契約範囲と異なりM&Aの関係については情報が遮断されていることを依頼者に説明する必要があります。専門家に相談される際はこの点に注意が必要です。
基本ルール2:M&Aを検討している事実の開示を特定の関係者に限定すること(秘密保持)
M&Aは非常にナイーブな取引です。これまでお話ししたように通常は売り手が様々な背景から売却を考えて動き出します。初めからマッチングサイトなどに登録するケースもあるでしょうが、「誰が誰とM&Aしようとしているか」、というのは非常に機密性の高い情報です。したがって初期の段階において候補先に声をかける際には相手の関心があるかどうかを探るため徐々に情報量を増やし、一定以上開示する場合には秘密保持契約書を交わすなどのコントロールが重要です。
またアドバイスを依頼する専門家に対しても同様に情報開示については秘密保持契約をすることがあります。
基本ルール3:M&Aに関する物事の決定尺度は現金価値によること
M&Aで取引される事業や資産には様々な形態がありその価値評価は大変複雑かつ多様です。中にはオーナーの思いとかこだわりとか「お金で買えない価値」もあるかも知れませんが、それでは取引が成立しませんので、一般的には現金価値で考えることにしています。価値評価は抽象的な要素がどうしても多くなりがちです。また売り手の考える価値と買い手の考える価値はまったく真逆になります。したがって両者でapple to appleの議論にするには同じ土俵で議論する必要があります。
ここでは具体的な現金価値測定手法は扱いませんが、基本的なことは教科書に載っていますので各自学習願います。
前回の最後に達成したい目的と譲れない条件について触れました。実はこれには2種類あります。売り手個人の目的と会社の目的です。これらは必ずしも一致しません。たとえば社長個人の利益追求のためにM&Aをすると会社の将来の利益を損ねる可能性があり、これは会社の売却価値に影響してきます。したがってこれらをうまくバランスさせる必要があります。
次にM&Aをする前に準備すべきことを見ていきましょう。
①まず何よりも重要なのは継続事業の前提がキープされていること、少し乱暴な言い方をすれば「売り物になるか?」ということです。とりわけ社長が営業の根幹をなしている中小企業において社長が去った後は商売が成り立つのかが気になります。もちろん優秀な後継者がいるケースもありますが、この点はとくに慎重に検討しておく必要があります。
②社長は厚い信頼を受けている主要顧客や従業員への説明責任を果たす必要があります。もちろん初めから相談するわけにはいきませんが、このタイミングの取り方は結構重要です。これは中小企業では人と人との信頼関係が会社の価値に重要な影響を与えているため、上記継続事業の前提にも関わる問題です。
③詳しく知る必要はありませんが、M&Aの基本的なルールは知っておいたほうがいいと思います。ネットなどでも多くの情報が得られますので、このシリーズで議論されているような概念的なことやより実務的な話など自身の検討段階に応じて見ておくべきでしょう。M&Aは相手のある交渉事です。あとで知らなかったは通じません。
次回はM&Aの基本的ルールについて見ていきたいと思います。
そこで最も重要なのは動機・目的です。一般的に売り手の動機としては以下の3つが代表的なものです(ここでは売り手とは経営権を手放す行為を言います)。
①経営者の交代:これは単に後継者がいないというネガティブな理由だけでなく、より優秀な経営者に会社を委ねたいとか社内ではできない他の事業に携わりたいなどの理由によるものも含まれます。
②経営手法の改革:経営が旨くいかなくなると周囲の利害関係者から退陣を促されることがあります。とりわけ金融機関との取引が正常化できない場合には経営責任を問われることがあります。
③シナジーの追求:企業価値を高めるため同業どうしで組んだり、関連事業と組んだり、様々なタイアップの方法がありますが、そのやり方次第では自社の経営権を手放す結果になることもありえます。
いずれの場合も売り手としては絶対に達成したい目的、そのために譲れない条件あるいは譲れる限度を明確にもっておいて交渉に臨むことが求められます。
次回も売り手側の注意点についてもう少し深堀していきます。